PET SOUNDS RECORD          Good Timin'コラム



 VOL.5 “FIRE AND RAIN”
~武蔵小山駅前から移植された桜の物語


◆3◆ 心の奥のふるさとへ




 正直申し上げると、出発前は、桜の木自体があるかどうかもやや不安でした。

 数ヶ月前に移植したものの、厳しい寒さの冬に根つかず、
結局捨てられてしまっている、とか、先日の地震で倒れてしまっていないか、
などと、最悪の事態も想定して出掛けていたので、
まさか、その移植されたばかりの“桜の木”に、
桜が咲いているとは、夢にも思いませんでした。

 この日は、寒空の1日で、冷たい風がときおり強く吹いていましたが、
その風になびく、桜の花と細い枝がなんともけなげながら、本当に頼もしく見えました。

   

 ちなみにこの桜の木が植えられているのは、
移植していただいた造園会社・代表の方のご実家、のどかな畑の並びに移植され、
都会の喧騒から離れたその“桜の木”は、まだ包帯でグルグル巻きの状態ながら、
そのゆったりした空気を楽しんでいるようにも見えました。

 残念ながら、この日はその家には誰もいらっしゃらず、
写真だけ撮って、ご挨拶できなかったのですが、
この後、伺った造園会社の方のお話しによると、
この“桜の木”は、今はこうやって移植されたばかりでも、
桜を咲かせてくれたけれども、暑いひと夏を越さないと、
本当に根付くかどうかはまだわからない、とおっしゃってました。

 さすがに古くからある桜の木、
移植され、たくさんの枝と根を切ったので、
夏の暑さに耐えられず、駄目になってしまう桜の木もあるそうなので、
まだ、油断はできないとは思いますが、
こうやって、場所が変わっても美しい桜の花を見せてくれた“この桜”。
 来年もまた美しい桜の花を見せてくれるはず、と強く思いました。



  ♪ ぼくは炎もくぐりぬけてきたし、雨にもうたれてきた
     無くなってほしくなかった陽気な日々もあった
     そして、ひとりの友だちも見つけられない孤独な日々も・・・。
     でもいつだって、きみとはまた出逢えると思っていたんだ ♪
                         James Taylor 「Fire And Rain」の歌詞より


 寒空の下、冷たい風にうたれながら、
桜の木がそう話しかけてくれているように感じ、
「ありがとう」と桜の木に語りかけるつもりでここまで来たのに、逆に励まされ、
強い生命力、というような言葉では括れない、その“桜の木”の尊さに、
僕は、純粋に“感動”したのです。


 おそらくこれからの人生でも、
毎年のように“お花見”をすることになると思われますが、
今年行なったこの“お花見”は、
一生僕のこころの奥に残り、桜の花を見るたびに、
そのこころの奥のふるさとへ、誘ってくれることになるだろう、
と確信したある春の1日でした。



2005年4月某日
<ペット・サウンズ・レコード 森 陽馬>





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