PET SOUNDS RECORD
今日のこの1曲 アーカイヴス


  今日のこの1曲 “Achives”

<2008月10月>

当店ペット・サウンズ・レコード店にて、
その日に店内でかけていた曲の中から、
店員の独断と偏見で選んだ“今日のこの1曲”コーナー

2008年10月に更新した“今日のこの1曲”コーナー。
廃盤・生産中止、規格番号の変更など、
情報が古くなっている商品もございますが、ご了承くださいませ。


<最新の“今日のこの1曲”はこちらのページをご覧ください>


2008年10月1日(水) James Taylor 「Wichita Lineman」

 早くも10月になってしまいました。今年も残すところわずか3ヶ月。クリスマスのオーダーは来ているものの、年末の目玉!的な新譜はまだあんまりないですね。

 楽しみ、という点では、デヴィッド・T・ウォーカーの新譜が11月5日に発売が決定。(『Thoughts』 UPCH-20113 \2,500)
 バリー・ホワイト「愛のテーマ」や、スタイリスティックスの「誓い」、クルセイダーズ「ストリート・ライフ」、そしてスティーヴィー・ワンダーの必殺バラード「リヴォン・イン・ザ・スカイ」のカヴァーが収録される模様で、名作『オン・ラヴ』に続く甘々なギター・インストが楽しめる1枚になりそうです。

 さて、カヴァーといえば、名シンガー・ソングタイター、ジェイムス・テイラーの新作もカヴァー・アルバムでした。(『カヴァーズ』 UCCO-3007 \2,500)
 ロックン・ロール寄りの選曲なので、彼らしい温もりあるサウンドよりはロック色が強めなのかな、と予想していましたが、そんなことは全然なくて、ジェイムスらしい穏やかな歌声で安心して聴ける作品に仕上がっていました。

 どんな曲でもジェイムス・テイラー色に染めてしまうその歌声ももちろんですが、スティーヴ・ガッド、ジミー・ジョンソン、マイケル・ランドウを中心としたバック・バンドの抑え目な演奏もすっかり板についた印象。ジェイムスの奥深いルーツを職人芸で叙情的に表現しています。

 その中でも特に気に入っているトラックは3曲目「ウィチタ・ラインマン」。名ソングライター、ジミー・ウェッブ作で、グレン・キャンベルが1969年にヒットさせた名曲。セル・メンやジミー・ウェッブ本人のヴァージョンもありますが、このジェイムス・テイラーのヴァージョンは素晴らしいですね。ジェイムスの前作『オクトーバー・ロード』の雰囲気を引き継いでいる感じで、郷愁感を呼び起こす1曲でした。森 陽馬

2008年10月2日(木)キティー・デイジー&ルイス 「SWINGING HAWAII」

 モノクロのジャケが渋くてかっこいい!見ためだけじゃなく、アナログ機材にこだわった音作りも古めかしく、これまた渋いのです。
 
 キティー・デイジー&ルイス(BRC-207 \2,300)は、20歳のデイジー、18歳のルイス、15歳のキティーの3兄弟ユニット。これがデビュー作です。
 40〜50年代の音楽に影響を受けているそうで、78回転のアナログ・シングルをリリースしたり(収集も)、ファッションなどからも、まだ若いのにマニアぶりが窺えます。
 
 ちなみに3人の母親は70年代後半〜80年代に活動していたイギリスの女性バンド、レインコーツのメンバーだった人で、ライブでは父親と共に3人のバックを務めているのだとか。(あぁ...親子愛。)
 
 ブルース、ロカビリー、カントリー、ロックンロール、ハワイアンなどを織り交ぜ、演奏も3人で、バンジョー、ラップ・スティールの他様々な楽器を使い、自分達でやっているというのだから驚きです。リード・ヴォーカルも曲によってかわります。随所に出てくるブルース・ハープがとても印象的です。
 
 クレジットからして殆どがカバーだと思われますが、1曲だけ彼らの名前が入っているのがこの「SWINGING HAWAII」。もうそんな時期は過ぎてしまいましたが、なかなか良いインストだったので。やってる事こそ古いですが、まだ声に幼さが残っているのがなんか微笑ましいなと思いました。東尾沙紀

2008年10月3日(金) アンディ・ギブ 「恋のときめき」

 アンディ・ギヴはビージーズのバリー、ロビン、モーリスのギヴ兄弟の末っ子。ビージーズの曲は今でもラジオから流れてきたり、TV-CMに使われたりしているのですが、アンディ・ギヴは忘れられた存在になっているのが残念です。

 デビューした1977年から1978年にかけて発売したシングルが3曲連続して全米No.1を獲得したほど、凄い勢いがあったのですが、(この曲の次に「愛の面影(Thicker Than Water)」、「シャドー・ダンシング」)、アイドル的な人気ということで片付けられてしまっているようです。たしかにアイドル性はありましたが、当時19歳でしたから・・・。

 この曲は彼のデビュー曲。原題は「I Just Want To Be YOur Everything」。1977年夏の大ヒットです。3週間1位を続け、一度3位まで後退したのに4週後にまた1位に返り咲く、というしぶとい離れ業まで披露してくれた曲です。こういう出来事はラジオのTOP40番組を聞いていると、とても興奮するもので、記憶に残っています。

 バリー・ギヴの作品で、コーラスも目一杯参加しています。アンディのギヴ・ファミリーらしい歌い方とグルーヴ感あふれる演奏(ギターのカッティングがかっこいい!)が極上のAORを感じさせてくれます。
 この後、ビージーズは『サタデー・ナイト・フィーヴァー』関連の曲で大当たり時期を迎えるわけですが、アンディはその口火をきったということになります。森 勉

★ジャケットはこの曲収録のベスト盤(UICY-1518 \1,835)。

2008年10月4日(土) 笹倉 慎介 「雨の東松原」

 晴れた日でもクーラーなしで店内が心地良い10月。自動ドアを開放したままでも蚊は入ってこないし、風がなくても汗は出ないこの季節が店にいても一番過ごしやすいですね。程よく隙間のある音楽がじんわりと身に沁みてくる感じもあって、音楽を聴いていて楽しく感じる今日この頃。
 本日紹介するアルバムは、そんなやさしい陽射しがふりそそぐ昼下がりに聴くのにピッタリの1枚といえるでしょう。

 笹倉慎介は60〜70年代のミュージシャンに憧れ、狭山・入間市米軍ハウスに移り住んだ、という27歳の男性シンガー・ソングライター。ワールド・スタンダードや細野さん関連のワークスで活躍されている鈴木惣一郎さんプロデュースによるこのデビュー盤『ロッキンチェア・ガール』(GRD-1001 \2,300)は、まさに“21世紀のホソノハウス”、“27歳のひとりはっぴいえんど”と称したくなるような出来の1枚でした。

 穏やかで気張らないバックの演奏、大滝詠一似の歌声(声もそうですが、歌唱の語尾部分がなんとなく似ているような気がします)が見事にマッチ。ところどころでサニーデイ・サービスの影響も垣間見えて、ある意味“はっぴいえんどフォロワー第3世代”とも言えるのかもしれません。ただ単にフォーキーなだけでなく、ポップセンスある楽曲も魅力です。(特に今日のこの1曲「雨の東松原」は大滝さんの歌声に似ていますねー)

 完成度が高すぎるせいか、すでに彼の世界観が出来上がりすぎているためかもしれませんが、何かもうひとつ足りない感があるのも僕個人的な本音。次作ではキラーチューンというか、毒というか、ガツッとどこかしら惹きつける求心力も期待したいところ。
 もちろん総体的には素晴らしい作品なので、はっぴいえんど、サニーデイ好きの方は是非ともチェックしてもらいたいニューカマーです。森 陽馬

2008年10月5日(日) Karen Verros 「Little Boy」

 エリー・グリニッジ&ジェフ・バリーは、キャロル・キング&ジェリー・ゴフィン、バリー・マン&シンシア・ワイルと並んで、ブリル・ビルディング系のソングライターとして、数々の名曲を世に送り出しています。
 特に「ダドゥ・ロン・ロン」、「ビー・マイ・ベイビー」、「ベイビー・アイ・ラヴ・ユー」など、フィル・スペクターと組んだ作品が印象に残っていますが、このCDはわざとそういう超有名曲は省いてある編集になっています。さすが、今をときめくコンピレーションを作ったら世界一のイギリス・ACEレーベル! 埋もれているイイ曲を探してきてくれます。

 この今日の1曲「Little Boy」は一般的にはクリスタルズで知られている曲ですが、1965年にこんなカヴァーもシングルとして発売されていたんですね。
 KAREN VERROS - 全くどんな人だかわかりませんが、なかなかいいヴァージョンです。♪ドゥーランデランデ♪のコーラスと後半のストリングスがフィル・スペクターの時代を伝えてくれます。アレンジはジャック・ニッチェ。

 このCDにはマニアックな曲以外に定番曲もちゃんと入っています。
 「アイ・キャン・ヒア・ミュージック」(ビーチ・ボーイズ)、「ドゥー・ワー・ディディ」(エキサイターズ)、「ハンキー・パンキー」、「リヴァー・ディープ・マウンテン・ハイ」(ニルソン)、そして僕がエリー・グリニッジ&ジェフ・バリー作でベスト3にいれたいと思っているレスリー・ゴーアの「メイビー・アイ・ノウ」も。
 ちなみにうちの若いスタッフ東尾がこのアルバムで一番気に入ったのがこの「メイビー・アイ・ノウ」だそうです。森 勉

2008年10月6日(月) Jeff Larson 「Karen」

 一般的な知名度はほとんど皆無に等しいけれども、ウエスト・コースト・ロック好きの間では、密かに人気の高いサンフランシスコ出身のシンガー・ソングライター、ジェフ・ラーソン。

 1990年代後半から作品をコンスタントに発表してきて、それらのアルバムは国内盤も出ていたのですが、今秋に出た新作『Left Of A Dream』(RBR-108)は自主制作盤でのリリース。(今のところ、国内盤発売予定はありません) ジャケットも地味目ではありますが、内容は彼らしい美しいメロディー・ラインとコーラスが心地良い好作でした。

 今までの作品に比べると、多少アコースティック寄りなサウンド。AOR的なアレンジは少なめで、70's初期のアメリカのような“アコースティック・ウエスト・コースト・サウンド”を楽しめる1枚に仕上がっています。
 実際、そのアメリカに在籍していたジェリー・ベックリー、デューイ・バネルも参加。あと、ブライアン・ウィルソン・バンドでお馴染みのジェフリー・フォスケットも後半3曲でコーラスを聴かせてくれます。森 陽馬

2008年10月7日(火) Kenny Lattimore 「It Ain't No Use」

 山下達郎のバック・バンド・メンバーによって結成されたNelson Super Project。8日発売でモータウンの楽曲をカヴァーした新作『Nelson Motown +』(UICZ-4185 \3,000)がリリース予定だったのですが、発売直前で10月29日に発売延期となってしまいました。
 うちの店に届いた資料によると延期理由は<制作上の不備>としか書かれていないので、具体的にどこが悪かったかはわからないのですが、(ネルソンのHPを見たら“ブックレット差し替え”のようです)、とにかくもご購入予定だった方、しばしお待ちください。

 さて、モータウン・カヴァー絡み、ということで、今日の1曲はこれ。
 ケニー・ラティモアは1990年代中盤あたりから活躍している実力派ソウルシンガー。ここ最近は、奥方シャンテ・ムーアとのデュエット・アルバムが続いていましたが、ソロ名義としては約7年ぶりとなる新作『タイムレス』を先日久々に発表しました。

 アリスタからヴァーヴに移籍してのこの新作はカヴァー・アルバム。アル・グリーン「サムシング」、ビートルズ「アンド・アイ・ラヴ・ハー」、ダニー・ハサウェイで有名な「ギヴィング・アップ」、アレサ「エイント・ノー・ウェイ」などをミディアム〜スロー・アレンジのムーディーな雰囲気でカヴァーしています。
 どの曲も彼らしいセクシーな味付けで良かったのですが、スティーヴィー・ワンダー『ファースト・フィナーレ』に収録されている名曲「イット・エイント・ノー・ユース」のカヴァーは特に聴き応えがありました。

 ちなみに変わったところでは、1997年に急逝した白人シンガー・ソングライター、ジェフ・バックリィーの遺作『素猫』に収録されている「Everybody Here Wants You」なんかをカヴァーしていて意外でしたね。ジェフ・バックリィーの、それもなんでこの曲を黒人であるケニー・ラティモアが選んだのか興味深いところです。森 陽馬

2008年10月8日(水) エリック・ベネイ 「You're The Only One」

 秋〜冬になるとR&B/SOULが聴きたくなる、ということで、昨日に続いて最近気に入っている現代R&Bを。

 エリック・ベネイは1990年代後半から活躍している新世代ソウル・シンガー。99年にリリースした2ndアルバム『Day In The Life』は、TOTO「ジョージー・ポージー」カヴァーの大ヒットもあって、ここ日本でもかなり話題になりましたが、その後は当時の奥方ハル・ベリーとの離婚などもあり、やや鳴りを潜めた感もありました。

 約3年ぶりとなるこの新作『LOVE&LIFE』(WPCR-13105 \2,580)は彼らしいネオソウル感あふれる仕上がりで、特に3曲目に収録されている「You're The Only One」! これはいいですね!
 邦題で「君こそすべて」というタイトルがついていますが、その通りの甘いミディアムR&Bを聴かせてくれます。コーラスの重ね方とか配置がNICE! この1曲だけでも買いの1枚ですね。森 陽馬

2008年10月9日(木) 竹内 まりや 「家に帰ろう」(カラオケ)

 毎月、“新譜案内書”という各メーカーによって作成・配布される冊子を読みながら、翌々月くらいにリリースされる作品の発注数を決めているのですが、ビクター社の今月の案内書を見てビックリ! なんと!

12月24日発売 (CD) 村冶佳織 『アランフェス協奏曲』 180,000円(!)
12月24日発売 (CD) フジ子ヘミング 『奇蹟のカンパネラ』 180,000円(!)
12月24日発売 (CD) 川井郁子 『新世界』 180,000円(!)

ちなみにこれ、BOXではなくCD1枚の値段。何が違うかというと、
【高次元のマスタリング技術「K2HD MASTERING」を施し、更にその高音質をあますことなく受け入れ、耐久性・安定性にも優れた「ガラス」を使用した新技術<K2HDマスタリング+クリスタル>CD】
なのだそうだ・・・。(当然、完全限定盤)

最初見たときは、18,000円の間違いかな?(CD1枚で18,000円でも充分高い・・・ハズ)と思ったのですが、まさか本当に18万円とは! (ビクター社のサイトにはまだ掲載されていないので、参考までにCDジャーナル誌のサイトはこちら
 この不況下でこんなバブリーなCD買う奴がいるのか?、だいたいCD1枚作るのにこんなに技術料かかるのか?、などなど疑問がどんどん湧き上がってきますが、いくら並び立てても貧乏人の愚痴にしかならなそうなので、このへんにしておきますか・・・。いやはや。

 さて、そう考えると(というか考えなくても)、竹内まりやさんの今回のベスト盤は安い! レコード店からすると安すぎて困っちゃうくらいだ。初回盤は4枚組で全42曲+10曲。それを山下達郎氏によるデジタル・リマスターが施され、更にブックレットには天辰さんのライナーノーツ+竹内まりや本人による全曲解説・・・、と至れり尽くせりで3,980円ですからね。このまりやさんのCD40枚以上買ってもまだお釣りがくるとは、18万円のCDたるや恐るべし・・・。

 ちなみに、初回盤のボーナス・カラオケ・ディスク、あくまでオマケかな、と当初は思っていたのですが、結構楽しくてよく聴いています。今までは気付かなかったコーラスの配置や楽器の音が聴こえてくるなど、アレンジの凝り方も感じられていいですね。是非購入された方はBGM気分で聴いてみてください。森 陽馬

2008年10月10日(金)Arlene Smith 「He Knows I Love Him Too Much」

 ビッグトップ・レコードと言えば、「Runaway」(悲しき街角)で有名なデル・シャノンということになりますが、その他にも興味深い良質のポップ・ソングを多数発売したニューヨークのレーベルです。

 このCDには、1958年設立当時の音源から1964年までのビッグトップが放ったヒット曲、及びノンヒットのレア・シングル曲が全26曲収録。発売はおなじみのACEレーベル。先日紹介したエリー・グリニッジ&ジェフ・バリー作品集に続いて、オールディーズ・ファンには堪えられない選曲のCDです。(『The BIGTOP RECORDS STORY』 CDCHD-1207)

 レーベルとしては初のヒットとなったボビー・ペドリック・ジュニア「ホワイ・バックス・アンド・サドル・シューズ」(1979年に「サッド・アイズ」を全米No.1にしたロバート・ジョンが12歳の時に出したドク・ポーマス&モート・シューマン作)、バート・バカラック作の「トゥルー・ラヴ・ネヴァー・ランズ・スムース」をいい雰囲気でカヴァーしているドン&ジュアン、キュートなヴォーカルが魅力のアンドレア・キャロル「ザ・ドゥーラング」など気になる曲ばかりですが、やはりフィル・スペクターものにしましょうか。

 1960年代初め、スペクターはこのビッグトップでプロデューサーをしていた時期がありました。
 1961年暮発表のこの曲は、元シャンテルズのリード・ヴォーカリスト、アーレン・スミスの堂々とした歌いっぷりとスペクターらしいゴージャスなストリングスと、キャロル・キング&ジェリー・ゴフィンのなんともそそられる曲調、この3拍子が揃っているのに全くヒットしませんでした。

 曲としてはほぼ同時期に出た、これもスペクター絡みのパリス・シスターズのヴァージョンでヒット。“トラブルメーカー”のフィル・スペクターらしい逸話のひとつとなった原因の名曲です。
 ここらへんの詳しい話は、白夜書房刊の『フィル・スペクター甦る伝説』第7章あたりに載っています。それにしてもこの曲の弦の音は本当に素晴らしい! 森 勉

2008年10月11日(土) THE ZUTONS 「What's Your Problem」

 デビューから4年、今作で3枚目になる新作「You Can Do Anything」(HSE-60006 \2,490)を引っ提げた来日公演を来週に控えているリヴァプール出身の5人組、ザ・ズートンズ。

 デビュー作は良く聴いていたので彼らの事は好きだったのですが、最近は熱心に追いかけていなかったため、1st、2nd共に本国イギリスではプラチナ・ディスクを獲得、様々な新人賞を受賞するほどヒットしていたとは知りませんでした...久々に聴いてみるとこれが結構かっこ良くて気に入っています。

 今作ではアメリカ人のプロデューサーを起用、初めてイギリスを飛び出し、LAでレコーディング、ギタリスト交代など色々と環境の変化もあってか、ハードな面が際立っていて、全体的にダイナミックな音作りがされています。(ジャケットの”Z”にもその感じが表われている気がします。) でもあまりヘヴィになりすぎないのは、メロディーがキャッチー、コーラスが入っている、あとは紅一点アビ嬢(美人です!)が吹くサックスがアクセントになっているからでしょう。

 今日の一曲はアルバムの中で最もキャッチーな「What's Your Problem」。
 どこで弾いているのかはわかりませんが、ベンモント・テンチ(トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズ)がプロデューサー繋がりでギターで参加しているそうです。間奏のギターカッティングがかっこいい1曲。

 他にもリード・シングルとなった「Always Right Behind You」は、スライド・ギターが印象的な今後彼らの代表曲になっていくであろうノリノリのロック.ナンバー! 出だしがギター→ドラム→ベースと順に入っていくところも、ライブで聴くときっと盛り上がるでしょう。ライブにも定評がある彼ら、生でも映像でも観る機会がありましたら是非チェックしてみて下さい。東尾沙紀

2008年10月12日(日) Kool Elevation 「Far Away」

 まさにジャケットの雰囲気そのまま♪ カラパナ、マッキー・フェアリーなどのハワイ産AORお好きな方に今推薦しているのがこの1枚。クール・エレヴェイションというグループの唯一のアルバム『1st Elevation』(VSCD-3370 \2,625)。

 元々は1996年に録音されていた作品で、発売当時はハワイの一部ローカルな場所でこっそりと売られていただけだったそうですが、これがなんとも夢見心地にさせてくれる素晴らしい出来。この度VIVIDサウンドよりボーナス・トラックも追加され国内盤化。
 全編アコースティック・ギターを基調にした心地良いサウンドで、アイランド・メロウなハワイ産AORが楽しめます。

 ハワイの音楽というと、ハワイアンやフラの音楽ばかりが語られがちですが、ケアリイ・レイシェルを含め良質なポップスを志しているミュージシャンも結構いるようですね。カラパナ関連はもちろん、カントリー・コンフォート、ビリー・カウイ、クイ・リーなどがお好きな方にもオススメのアルバムです。森 陽馬

2008年10月13日(月) Kaki King 「Sad America」

 先日、ショーン・ペン監督映画『イントゥ・ザ・ワイルド』を鑑賞。

 ある方から推薦されて拝見したのですが、これはホントいい映画でした。実話を元に作られているため、ハリウッド的なエンターテイメント作ではないですし、観終わってハッピーな気分になれるわけではないストーリーなので、万人に受ける映画ではないかもしれませんが、様々な点で感銘を受けました。

 一言でいうとロード・ムーヴィーということになりますが、主題としてはファミリーであったり、喜びや悲しみを分かち合うことの素晴らしさが、美しいアメリカの自然映像とともに見事に描かれていて、原作の本(ジョン・クラカワー著『荒野へ』)も読んでみたくなりました。

 さて、その映画のサントラ盤を手掛けているのはパール・ジャムのエディ・ヴェダーで、最後のタイトルロールにかかる曲も彼らしい武骨な歌声が映画の雰囲気にマッチしていたのですが、個人的に印象に残ったのは、映画の中で随所に流れるギターの響き。その映画のスコア(音楽)を担当しているのが、女性ギタリスト、カーキ・キングでした。

 カーキ・キングは1979年生まれアトランタ出身の女性ギタリスト。約10年前に若くしてデビューした時はタッピングなどを駆使して自由自在にギターを操り、天才女性ギタリスト誕生、と騒がれましたが、最近はシンガーソングライターとして自ら歌い、キーボードやドラムも演奏した作品を発表しています。

 今日紹介する『Dreaming Of Revenge』(PVCP-8036 \2,000)は今年発表された4作目で、ディランやダニエル・ラノワ、エミルー・ハリスなどとの仕事でも知られるマルコム・バーンがプロデュース。
 超絶なアコースティック・ギターと哀愁ある音色が浮遊感あるサウンドと相まって、独特な夢の中を漂うような感覚のインストと歌が秋の風に心地良く馴染みます。森 陽馬

2008年10月14日(火)ディープ・パープル 「スモーク・オン・ザ・ウォーター」

 クレイジーケン・バンドのギタリスト、小野瀬雅生が『ギタリスト大喰らい -炎のロック・ギタリスト大全-』(P-VINEブックス)という本を出しました。

 彼が気になる古今東西総勢150人以上のギタリストに関しての所見が語られているのですが、これが面白い! 大いに刺激されてしまい、今日は突然ディープ・パープルが聴きたい気分になりました。

 「ハッシュ」、「ブラック・ナイト」、「ハイウェイ・スター」、「スペース・トラッキン」、「バーン」など、当時よく聴いた好きな曲がいろいろとありますが、今日は1972年のアルバム『マシン・ヘッド』(WPCR-75035 \1,800)のB面1曲目、シングルでも大ヒットした「スモーク・オン・ザ・ウォーター」。ベタで申し訳ない!

 有名イントロを持つロック楽曲部門では必ずベスト10に入りそうな、そのイントロのギターはリッチー・ブラックモア。このギター・リフを考えただけでもグラミー賞ものですね。

 1970年代前半僕はこういうハード・ロックっぽいものとシンガー・ソングライターものの両方を聴いていました。レッド・ツェッペリン、グランド・ファンク、ELP、ピンク・フロイドなどを、キャロル・キング、ジェイムス・テイラー、ジャクソン・ブラウンなどと一緒に聴いていた時代でした。森 勉

2008年10月15日(水) 古内 東子 「カサノバ」

 まさに“恋愛ストーリーテラー”。恋愛の歌を書かせたら現代No.1! 古内東子の約3年ぶりの新作『In Love Again』が本日発売。(初回盤DVD付 NFCD-27123 \3,675)

 もちろん、恋愛ソングは星の数ほどありますが、彼女の詞は目に見えてくるようなストーリー性があって、聴いているだけで自らが恋愛している気分にさせてくれる魔力を持っています。
 前作に引き続き、名アレンジャー&キーボード奏者の森俊行、モーニング娘。などハロプロ関連の編曲から様々なアーティストのアレンジを手掛けている河野伸などがプロデュースを担当。その魔性を持った歌詞に絶妙なサウンドで、彼女の独特な歌声を引き立てています。

 個人的には失恋の歌で占められた2000年作『Dark Ocean』が彼女の最高傑作だと思っていて、それと比べると今作は微妙な男女関係の歌が多いものの、多少幸せオーラが漂っている感もあるのですが、楽曲的には近作の中では一番聴きやすい印象。その中でも5曲目「Mystical」、6曲目「カサノバ」が気に入っています。

 特に「カサノバ」は彼女としては珍しいハイテンポなグルーヴィー・チューン。山本拓夫のフルートが全編にわたって効果的に響いていて、更にaikoなどのバックで知られる名ドラマー、佐野康夫がファンキーながらもポップ感覚溢れるドラミングを披露しています。ライヴ映えしそうなナンバーで、彼女の新たな魅力を引き出した1曲といえるでしょう。森 陽馬

2008年10月16日(木)Eli "Paperboy" Reed & The True Loves 「I'll Roll With You」

 これはスゴイ! “白いサム・クック!” 
はたまた、“現代の白人版オーティス・レディング!”

 そう評したくなるのが、今日入荷してきたイーライ・“ペーパーボーイ”・リード&ザ・トゥルー・ラヴズというグループのアルバム『ロール・ウィズ・ユー』(PCD-20035 \2,100)。

 マサチューセッツ出身の白人シンガー、イーライ・リード率いるこのバンドの持ち味は、なんといっても黒人顔負けのソウルフルな歌声&演奏。最近の打ち込み多用R&Bや、UKを中心に人気沸騰中の新世代FUNKともまた違って、これでもかっ!と60'sマナーにのっとったディープな魂(ソウル)を、それも全曲オリジナル曲で聴かせてくれます。

 昨年はエイミー・ワインハウスが大ブレイクしてグラミーまで受賞しましたが、このイーライ率いるバンドの歌&演奏の方が、よりソウルフルで、なおかつ聴きやすくかっこいい楽曲なので、ソウル好きの方なら本当にオススメ!
 曲によってはJB的なファンキーな楽曲、ディープなサザン・ソウル的ナンバー、そしてオーティス・レディングを意識したような熱い楽曲もありますが、今日のこの1曲E「I'll Roll With You」などを聴くと、彼のルーツはサム・クックなのだな、と実感できます。

 今年初めに出たライアン・ショウも新世代ソウル・シンガーとして話題になりましたが、イーライ・リードの場合は白人でありながらこの黒っぽさがとにかく素晴らしい! お手頃価格ですし、買いっ!の1枚です。森 陽馬

2008年10月17日(金)エゴ・ラッピン 「老いぼれ犬のセレナーデ」

 結成12年のエゴ・ラッピン、インディーズ時代の曲も含めたキャリア初の2枚組ベスト『BEST WRAPPIN' 1996-2008』(初回DVD付き TFCC-86266 \3,800)が先日リリースされました。
 
 「くちばしにチェリー」、最新シングル「GO ACTION」等ノリの良い曲を収めたディスク1(ヤルキ盤)、「あしながのサルヴァドール」や「色彩のブルース」等比較的スローな曲が収められたディスク2(セツナ盤)と、曲の雰囲気によって選曲されています。
 
 個人的な話ですが、初めてエゴ・ラッピンの名前を知ったのは7年程前で、CS放送でよく見ていた音楽チャンネルの今月のプッシュ曲として「サイコアナルシス」のPVがバンバン流れていて、曲もビデオもかっこよかったので流れる度に釘付けになっていたのを思い出します。
 それからはライブ映像など見る機会が増え、ある番組の中で中納良恵が外に腰掛け一人アカペラで歌う場面があり、その時に聴いて好きになったのがこの曲「老いぼれ犬のセレナーデ」です。

 2002年にメジャーからリリースされてロングヒットとなったシングル「〜Midnight Dejavu〜色彩のブルース」のシークレット・トラックとして入っていて、後に『Night Food』というアルバムにも収録された隠れた(?)名曲です。
 ベスト盤に収録されたのはアルバムのバージョンでしょう。弾き語りに近いアレンジの方が好きなのですが、間奏で泣きのギターをかき鳴らす重々しい雰囲気を持ったこちらのバージョンも初めて聴いてかっこいいなと思いました。
 「雨」というフレーズが多くでてくることもあり、メロディーの雰囲気的にも、雨の日に一人浸りたい気分の時に聴くといいかもしれません。
 
 入門編としてもオススメのベスト盤です。そしてエゴ・ラッピンはやはりライブ! 初回盤には初期の秘蔵映像から最新の日比谷のライブなどを収めたDVDが付いています。東尾沙紀

2008年10月18日(土) ジェシ・コリン・ヤング 「サンライト」

 さわやかな季節になってきました。エアコンを使わずにすむ状態が僕は好きなのですが、近年は一年中エアコンが作動している感じがありますよね。
 商売をしているところなど、いろいろな事情があって使わざるをえないのでしょうが・・・。本来この時期、東京の気候としては冷房も暖房もいらない一番エコな季節のはずなんですけどね。

 前置きが長くなってしまいましたが、さわやかな季節にピッタリのさわやかな曲が聴きたくなって、今日は「サンライト」。
 ヒット曲ではありませんが、ジェシ・コリン・ヤングが書いた名曲です。

 最初は彼が在籍していたグループ、ヤングブラッズのアルバムの中の曲として1969年に発表され、その後スリー・ドッグ・ナイトがカヴァーしたり、ヤングブラッズがライヴ盤でやったり、と僕の仲間内では当時の話題曲でした。

 この盤は今年6月にめでたく日本初CD化となった1976年発表のジェシのライヴ・アルバム。(『オン・ザ・ロード』 WPCR-75432 \1,800)
 美しいメロディーとジェシの優しいヴォーカルに身を委ねて秋の風を肌に感じるチョットした幸せ。森 勉

2008年10月19日(日)吉田美奈子&渡辺香津美 「ムード・インディゴ」

 アルバム全体を通して、名ギタリスト渡辺香津美のギターと吉田美奈子の歌のみ。ドアーズ「ハートに火をつけて」、ビートルズ「エリナー・リグビー」、ジョニ・ミッチェル作「青春の光と影 (Both Sides Now)」などをカヴァーした作品が発売。(『NOWADAYS』 EWSA-149 \3,000)

 渡辺香津美のアコースティック・ギター・ソロ・ワークスとなっている『ギター・ルネッサンス』シリーズ第3弾に、吉田美奈子が参加した曲「翼」が収録されたことがあり、その延長線上にできたアルバムと言えるかもしれません。カヴァー・アルバムが多い最近の音楽界ではありますが、聴いていて心地良いだけの単なるカヴァー・アルバムとは違って、静寂の中にも、“シンガー:吉田美奈子”、“ギタリスト:渡辺香津美”が真正面から対峙している独特な緊張感が伝わってきます。

 なお今作では渡辺香津美がアコースティック・ギターだけではなく、数曲エレキ・ギターも弾いており、このデューク・エリントン作「ムード・インディゴ」でもエレキを弾いていて面白いアレンジです。

 ちなみに音楽とは全然関係ないのですが、本日競馬で秋華賞というGIレースがあり、1着がブラックエンブレム、2着がムードインディゴという馬で決着。万馬券となりました。ブラックエンブレムから馬券を買っていたのですが、ムードインディゴは買ってなかったんですよねー・・・。いやはや・・・。勉強して出直してまいります。森 陽馬

2008年10月20日(月) Nina Simone 「Sinnerman」

 デヴィッド・リンチ監督映画『インランド・エンパイア』のDVDを購入し、公開初日(2007年7月21日の今日のこの1曲コーナーでも取り上げました)以来久々に鑑賞。

 いやー、これは何度見てもよくわからないですね。リンチ監督の前作『マルホランド・ドライヴ』がポップに思えてくるくらい不思議な映画。公開当時プログラムや雑誌などに掲載された今野雄二さんの解説が核心を見事についていてとても参考になったのですが、まあこの映画はストーリー云々ではなく、デヴィッド・リンチの頭の中、狂気を感じて楽しむ作品、だと思います。デヴィッド・リンチ映画をまだ1本もご覧になっていない方にはあまりオススメできませんのであしからず・・・。

 さて、映画を見終わって不思議な気分になるのは、ラストにこの曲が使われる場面があるからかもしれません。ニーナ・シモン「シナーマン」。
 ニーナ・シモンの中でもそんなに有名ではないマイナーながらもファンキーな1曲ですが、これが使われているラストの部分は強烈な印象を残しますね。“sinner”は罪という意味を持っているので、本編と何かしら繋がりがあるのかも。(ちなみに、主演ローラ・ダンの夫であるベン・ハーパーがこの場面でピアノ弾きとして登場)

 リンチ映画は毎回サントラも気になるわけですが今作は国内盤発売予定なし。自主制作の輸入盤(DLMC-2 \2,625)が出ているのみで、今までリンチ映画の音楽を支えてきたアンジェロ・パダランティ風独特な音感あるインスト、オールディーズ名曲リトル・エヴァ「ロコモーション」、今日のこの1曲ニーナ・シモン「シナーマン」もちゃんと収録、という構成。何故かデヴィッド・リンチ名義のシングル盤も発売されているので、マニアの方はそちらもチェックしてみてください。森 陽馬

2008年10月21日(火) LOTUS 「Bellwether」

 90年代にジャム・バンド・ムーヴメントを作った、といっても過言ではないロック・バンド、PHISH(フィッシュ)が再結成するらしい。(上記リンクはフィッシュの公式サイト。動画が流れます)

 フジ・ロック(すごく良かったそうですね)に来日したこともありながら見逃してしまって、バンドは2004年に解散。中心人物のトレイ・アナスタシオはソロ作を何枚か発表するなど、メンバー各々活動はしていたようですが、元マネージャーの結婚式を機に演奏したのがきっかけで、来年3月に再結成コンサートが決定したそうです。その流れで是非また日本にも来日してもらいたいものです。

 さて、ジャム・バンド・ブームは一時期ほどの盛り上がりは薄れてきましたが、個人的にこのロータスというバンドは気に入ってよく聴いています。

 ロータスはフィラデルフィアを拠点に活動しているライヴトロニカ・バンド(エレクトロニカと生バンド演奏を融合したジャム・バンド)。
 アンビエント的な要素も強かった2004年名作『ノマド』(これはホントいいアルバム)と比べて、先日発売された新作『ハンマーストライク』(LBCY-433 \2,400)はエレクトロニカは抑え目でだいぶロック色が強まった印象。骨太なタイプの楽曲もありますが、4曲目「Bellwether」はダンサブルなビートがかっこよくて、ライヴでも映えそうなナンバーでした。
 今回はコーラスが入っている楽曲もありますが、インスト・ロック、ポスト・ロック好きの方にもオススメできる1枚です。森 陽馬

2008年10月22日(水) Bill Evans 「You Must Believe In Spring」

 11月19日に発売予定だったジャクソン・ブラウンの各種アルバム限定紙ジャケット仕様での再発が、発売中止になりました。本日その旨のFAXが届いたのですが、やはりジャクソン・ブラウン側からNGが出たのでしょうか。一応全部持っているにも関わらず買おうかどうしようか迷っていたので、個人的には残念という気持ちの反面、ホッとしたという思いも多少ありますね。

 ここ最近は各メーカーが“SHM-CD仕様”と称して様々な作品をリイシューしており、正直言って出しすぎなのでは?と販売員も思えるほどの再発フィーバー。同じ作品を手を変え品を変え買わせる商法が多発しており、半信半疑のリリースも多いのですが、このアルバムの再発はうれしいですね。ビル・エヴァンス『ユー・マスト・ビリーヴ・イン・スプリング』(WPCR-13176 完全限定紙ジャケット仕様 \2,580)。

 1977年8月の録音作。しかしながら、公式に発売されたのはビル・エヴァンスが亡くなった1980年の翌年1981年で、追悼の意も込められてリリースされた1枚です。
 ビル・エヴァンスというと、やはり名盤と誉れ高い『ワルツ・フォー・デビー』が有名ですが、このアルバム『You Must Believe In Spring』はそれよりも全体的に穏やかな旋律で、とても聴きやすい1枚。バラード系ジャズ・ピアノお好きな方ならホントおすすめの作品です。

 ここ長らく国内盤は生産中止状態でしたが、2008年最新デジタル・リマスターされ、更にボーナス・トラックも3曲追加されての復刻。まだちょっと早いのですが、寒い冬に聴きたいジャズ・アルバムですね。森 陽馬

2008年10月23日(木) ザ・クラッシュ 「ロンドン・コーリング」

 ジョー・ストラマーの自宅で発見されたクラッシュの1982年のアメリカ、シェイ・スタジアムでのライブ音源が四半世紀を経てようやくリリース。(EICP-1060 \3.150 初回限定デジブック仕様)
 
 ザ・フーのサポート・アクトとして出演した10月12日、13日の2日間行なわれたうち、2日目の演奏がフルで収録されています。(MCなどはカット)
 当時2枚組のアルバムとして出す予定があったそうですが、色々あってお蔵入りとなってしまっていたようです。こうやってようやくアルバムとして陽の目を見る日がきて、ファンの方々は本当に長い間待ったことでしょう。
 
 特に記述はありませんが、音が思った以上に良いです!
 お客の歓声から始まり、メンバーが呼び込まれるところからもうワクワク。そしてのっけから「ロンドン・コーリング」! この曲は本当に何度聴いても鳥肌ものです。その他にも「ロック・ザ・カスバ」、「ガンズ・オブ・ブリクストン」、「シュド・アイ・ステイ・シュド・アイ・ゴー」など、お馴染みとも言える曲が並んでいます。そして最後は「アイ・フォート・ザ・ロウ」。
 
 もう私の拙い説明なんか要りません、とにかく爆音で聴きたい一枚!
 ドン・レッツによるライブ・ドキュメンタリーDVD「レヴォリューション・ロック」(EIBP-108 \3.990)も同時に発売されました。東尾沙紀

2008年10月24日(金) 矢野 顕子 「When I Die」

 最初聴いた時に、76年発表デビュー作『ジャパニーズ・ガール』の雰囲気に似ているな、と感じた矢野顕子の新作『akiko』(YCCW-10089 \3,150 ボーナスCD+DVDも付いた限定盤も同時発売)。

 矢野顕子本人の希望で、アメリカン・ルーツ・ミュージックの名プロデューサー/ミュージシャン、T・ボーン・バーネットをプロデュースに迎えた意欲作で、バックには、マーク・リボー(G)、ジェイ・ベルローズ(Dr)、そしてT・ボーン本人もギターで参加。音数が少ない中にも、奥行きがあるサウンドが味わい深く、聴くほどに沁みてくる傑作だ。

 矢野さんのインタビューを読んで知ったのだが、T・ボーン・バーネットは76年に出た『ジャパニーズ・ガール』を発売当時に実際聴いており気に入っていたとのこと。
 その『ジャパニーズ・ガール』はリトルフィートの面々が参加していたこともあり、同じ西海岸拠点ということも起因しているのかもしれないが、そういう意味でもこの新作は、約30年越し“21世紀のジャパニーズ・ガール”と例えたくなる1枚だ。

 レッド・ツェッペリン「Whole Lotta Love」、ドアーズ「People Are Strange」のような有名曲を矢野顕子流に大胆アレンジしている曲もいいが、オリジナル曲が秀逸。1曲目「When I Die」は切なくも暖かみのある歌詞と歌声、そしてピアノの響きがとにかく素晴らしい。
 レコーディングと同じメンバーでのライヴも計画中、とのことなので、是非日本でそれを実現してほしいものだ。森 陽馬

2008年10月25日(土) ジョン・メレンキャップ 「Troubled Land」

 T・ボーン・バーネットがプロデュースした最近のアルバムを昨日に続いて取り上げてみましょう。

 ジョン・メレンキャップは1970年代から活躍しているアメリカン・ロック・ミュージシャン。日本ではブルース・スプリングスティーンほどの知名度はありませんが、アメリカ本土では人気・実力ともに広く認められていて、今年は“ロックの殿堂”(ロックンロール・ホール・オブ・フェイム)に認定されるなど、現在でも精力的に活動中。
 その彼がポール・マッカートニー、ジョニ・ミッチェル、ジェイムス・テイラーなどの新作を出していることで注目されているレーベル、ヒア・ミュージックに移籍し発表したのが、この新作アルバム『Life Death Love And Freedom』(UCCO-3006 DVD付 \2,500)です。

 武骨なロックを聴かせてきた彼の作品の中でも今作は一番滋味深い作品かもしれません。リズム感あるロックな楽曲もありますが、アルバム全体を通してアコースティックな手触り感のある渋いアメリカン・ルーツなロック・サウンド。いかにもT・ボーン・バーネットらしい音色です。
 同じくT・ボーン・バーネットがプロデュースし昨年評判の良かったロバート・プラント&アリソン・クラウスのアルバムや、トム・ペティ『ハイウェイ・コンパニオン』(これはジェフ・リンプロデュースですが)あたりが気に入っている方にオススメの1枚。

 タイトル“人生・死・愛、そして自由”とあるように、歌詞も彼らしいアメリカの光と影をテーマにした詞世界。
♪紛争の多いこの地に平和をもたらしてくれ♪(「Troubled Land」の歌詞より)
 アメリカ国民のこういった声が次期アメリカ大統領に届くようになるのでしょうか。森 陽馬

2008年10月26日(日) 高田 渡 「コーヒー・ブルース」

♪三条へ行かなくちゃ 三条堺町のイノダっていうコーヒー屋へね♪

という歌い出しで始まる高田渡のこの歌で、京都に"イノダ"という喫茶店があることを知りました。この曲が収録されている『ごあいさつ』の発売が1971年。出てすぐにLPを買ったので、20歳の時に初めて聴いたことになります。

 それからまもなくして京都へ旅行した時に、三条通りと堺町通りが交差した場所をめざし、“イノダ”が見つかった時はなんだか感動してしまったおぼえがあります。それ以来京都を訪れる時はちょっとした休憩がてら“イノダ”でお茶することが多くなりました。この界隈には錦市場、京都文化博物館などよく行く場所があるし、中古レコード屋も多いし・・・。本店の風格ある店構えも好きですし、三条店の円形カウンターもいいですね。そしてウエイター、ウエイトレスのきびきびした動きと接客の良さもコーヒーの味とともに老舗の珈琲店の品格を感じさせてくれます。

 飄々とした高田渡ならではの独特の語り口のこの歌は、僕が京都好きになる要因のひとつを作ってくれたような気がします。森 勉

10月28日(火)に当店地下アゲインで、いつも20日にやっている気まぐれ音楽寄席の特別版をやることになりました。今月は村田和人くんのゲストで12日にすでに行なったのですが、そのゲストなしの僕のDJだけのヴァージョンで28日にやります。<70年代日本の名曲集>ということでかかる曲はほぼ同じですが、のんびりやりたいと思います。森 勉

2008年10月27日(月) はっぴいえんど 「はいからはくち」

 先日よりレイトショー公開された映画『ロック誕生』を鑑賞。

 60年代後半〜70年代初期、日本ロック(ニューロック)のムーヴメントを追ったドキュメンタリー映画で、内田裕也、ミッキー・カーチス、中村とうよう、近田春夫、遠藤賢司、加納秀人、森園勝敏のインタビューに、当時の貴重なライヴ映像を随所に盛り込んだ映像作品。
 通な方からするとそのライヴ映像も、Youtubeで見れる、ということになるのかもしれませんが、クリエイション、四人囃子の映像はかっこよかったですね。

 注目のはっぴいえんどの映像は、映画館で配布されている用紙によると1972年5月静岡県駿府会館『第4回サンシャイン・コンサート』とのこと。演奏と映像が合っていないので完璧なライヴ映像とはいえないかもしれませんが、数少ない貴重な記録といえるでしょう。
 その映画で使われたのが「はいからはくち」ですが、先日初CD化された岡林信康『コンサート』(FJ-1006 \3,500)にもはっぴいえんどの単独演奏曲として「はいからはくち」が収録されています。

 「肺から吐く血」と「ハイカラ白痴」、どちらとも取れるタイトルで当時の松本隆による日本語ロックを象徴するような1曲。この『岡林信康コンサート』は1970年録音・1971年発表だったので、実際はっぴいえんど名義で「はいからはくち」がリリースされたもの(シングル「12月の雨の日」のカップリング、アルバム『風街ろまん』)よりも先に世に出た音源、ということになります。演奏は荒々しいのですが、これでしか聴けない音源なので待望のCD化ですね。

 ちなみに話は戻りますが、映画『ロック誕生』の各インタビューの中では、ミッキー・カーチス、加納秀人のインタビューがダントツに面白かったです。文字起こしでもいいので、いつかノーカットで見てみたいインタビューでした。森 陽馬

★10月28日(火)渋谷シアターNでは遠藤賢司さんのトークショー&ミニライヴも行なわれるそうです。

2008年10月28日(火) 岡林 信康 「ヘライデ」

♪へ〜ライディ、ライディ、ライディ ヘイライディ ライディ・ホ♪

 岡林信康の再発シリーズの中で、この71年発表ライヴ盤『狂い咲き』(FJ-1008〜10 3CD \3,990)に、以前東芝から発売された時にはカットされていた「ヘライデ」が収録されたのは、日本フォーク界にとって大事件と言えるでしょう。

 「ヘライデ」の元となっているのはバハマ民謡の「ヘイ・ライディー」という曲。弾き語りで上記のような歌い出しから始まりますが、放送禁止歌とかそういうのではなく、歌詞に皇太子殿下、美智子紀殿下、天皇さま、浩宮さま、という言葉が出てきて、その言葉じりを使ったコミック・ソングのように仕立て上げている1曲なのです。

 特に皇室を批判・攻撃しているというわけではないのですが、おそらくメジャー・レーベルからリリース、ということになった際、皇室の個人名が出てくるということで当時東芝が自主規制したのかもしれませんね。

 ちなみにこの「ヘライデ」、クレジットでは作詞が<北山修、高石ともや、岡林信康、その他>と共作名義になっています。なお、アルバム内の他の歌は弾き語りだけでなく、バンド形態でやっている楽曲もあり、柳田ヒロ、戸叶京助、高中正義がバックを担当。若き高中正義はベースを弾いています。森 陽馬

2008年10月29日(水)オスカー・ピーターソン 「ロビンズ・ネスト」

 ここ最近は書き下ろしの小説を出していなかった村上春樹が、1年10ヶ月かけて長編小説を書き上げたそうです。

 『ねじまき鳥』を越えるような長編で、物語は3人称で展開していくとのこと。今までの小説は、“僕”が“あっちの世界”・“こっちの世界”、様々なパラレル・ワールドを意識・行き来することにより、自己の内面を掘り下げていく内容が多かったのですが、3人称で描かれるとなるとまた違った感じになりそうですね。発売が楽しみです。

 さて、村上春樹作品の中では個人的には、初期三部作の完結として『ダンスダンスダンス』が好きですが、意外なところでは『国境の南 太陽の西』も好きな1冊です。
 当時『国境の南〜』が刊行された時は、賛否両論(否の方が多かった?)だった記憶がありますが、今でも時々読み返してしまうほど何故か気に入っている小説。ナット・キング・コール「プリテンド」が効果的に使われていて、これを読むとナット・キング・コールが聴きたくなってしまいますね。(ちなみに、小説内にナット・キング・コールのレコードで「国境の南〜」を聴く場面がありますが、どうやら春樹さんの事実誤認でナット・キング・コールは「国境の南〜」を録音していないようです)

 他には、デューク・エリントン「スター・クロスト・ラヴァーズ」なども効果的に小説内に登場しますが、さりげなく出てくるのが「Robbins Nest」。名サックス・プレイヤー、イリノイ・ジャケーが1940年代に作った古い曲で、カウント・ベイシーやエラ・フィッツジェラルド、オスカー・ピーターソンなどが録音している隠れたジャズ名曲。実際にその曲が使われているわけではないのですが、“僕”が経営するジャズ・クラブの名前が“ロビンス・ネスト”となっていて、なかなかシャレてます。(掲載ジャケは、オスカー・ピーターソン『ガール・トーク』UCCU-5126 \1,995)

 最近の小説では昔ほど音楽が登場しなくなりましたが新作はどうでしょうか? 密かに期待しましょう。森 陽馬

2008年10月30日(木) センチメンタル・シティ・ロマンス 「夏の日の思い出」

バンザイ! センチメンタル・シティ・ロマンス 35周年!

ということで、本日渋谷クワトロで行われたセンチの35周年記念ライヴ、行ってまいりました。
 いやーーー、良かったですね。もちろん豪華ゲストも凄かったのですが、35年間活動してきたセンチの“音楽の温かさ”みたいなものが会場中に充満していて、見ていて本当に幸せな気分になれたライヴでした。

 約3時間にも及ぶライヴは、第1部がセンチのみで約1時間。10分の休憩の後、第2部冒頭から小坂忠さんが登場し「機関車」&「夕方ラブ」含む3曲披露。
 そしてそして、恒例?のシークレット・ゲストで竹内まりやさんが早くも登場! 意外な選曲で1曲目が大貫妙子さんのカヴァー「突然の贈りもの」(まりやさんの1stに収録。その時のバックもセンチ)。「緊張する」とMCで言いながら2曲目はイーグルスの「デスペラード(ならず者)」。そしてこの後、なんとなんと!もう一人ゲストを、と紹介されて出てきたのが山下達郎! いやー、まさか達郎さんが出てくるのは予想していなかったので本当にビックリ! 達郎さんはギター&コーラスのみの参加でしたが、まりやさん3曲目にこのメンバーで「人生の扉」を披露。なんとも豪華な揃い踏みでした。

 この後、伊勢正三さんが出てきて3曲披露。(「なごり雪」もやりましたが、「海風」がよかった)
 そして最後に大御所、加藤登紀子さんが登場。登紀子さんのライヴをご覧になられていない方は意外と思われるかもしれませんが、“ロック”していてすごくかっこいいのです。登紀子さんによる3曲がこの日一番盛り上がっていました。(ホント、登紀子さん良かったですね!)
 ラストにセンチとしても数曲披露した後、忠さん、正三さん、登紀子さんがもう1回出てきて「雨はいつか」を皆で合唱。アンコールで再びセンチが出てきて御開きに。

 最初にも述べたように、ゲストが加わってのライヴもよかったですが、やはりセンチとしての演奏・温かみのあるコーラス・ハーモニーが楽しくも感動的でした。
ということで今日のこの1曲は、告井さん曰く、“センチ幻の大ヒット曲&名曲”である「夏の日の思い出(ダンシング・ミュージック)」。これホントいい曲ですよね。<40周年記念ライヴ>でもこの曲が聴けるのを楽しみにしたいと思います。森 陽馬

2008年10月31日(金)Irma Thomas 「I Think It's Going To Rain Today」

 明日から予定されていたジョアン・ジルベルトの来日公演が延期&中になってしまったようです。
 いや〜・・・、悪い意味で本領発揮といったところでしょうか。11月1日&2日の分は12月13&14日に振替(3日の横浜パシフィコは中止で払い戻し)だそうですが、12月になってからまた「寒い国に行きたくない!」とか言い出さないといいですね。

 さて、明日から11月、ということで朝・夜はめっきり寒くなってきましたが、陽がかげって冷え込んできてから最近よく聴いているのがこの1枚。

 アーマ・トーマスは1960'sニューオリンズの歌姫として、一般的にはトレイシー・ウルマンで有名な「Break Away」、ローリング・ストーンズがカヴァーしたことで有名な「Time Is On My Side」、そして名曲「It's Raining」を歌っていることで知られていますが、現在でもニューオリンズを拠点に魂込めたソウルを歌っている現役バリバリの黒人女性シンガーです。

 今日紹介するアルバム『SIMPLY GRAND』(Decca 4781068)は今年発表した新作ですが、これが素晴らしく良い! 全14曲ニューオリンズにゆかりのあるピアニストをそれぞれfeatした作品で、ドクター・ジョン、ジョン・クリアリー、ヘンリー・バトラー、ダヴェル・クロフォード、マーシャ・ボールなどニューオリンズの名ピアニストから、ランディ・ニューマン、ノラ・ジョーンズ、ジョン・メデスキも参加。生ピアノの響きと味わい深いアーマのソウルフルな歌声が冷え切った心に温もりを与えてくれます。

 ノラ・ジョーンズが参加したF「Thinking About You」(ノラ・ジョーンズ3rdアルバム『Not Too Late』に収録されている曲のカヴァー。スティーヴ・ジョーダンがドラム叩いてます)も悪くないのですが、個人的にはやはりニューオリンズゆかりのミュージシャンが参加した曲の方がしっくりくる感じ。
 とかいいつつ今日の1曲はランディー・ニューマンが参加したラスト14曲目の「I Think It's Going To Rain Today」。
 ピアノとアーマの歌のみによるシンプルかつ地味なアレンジですが、この1曲は深いですね。曲自体はランディー・ニューマン作で、彼自身の1stアルバムに収録されている楽曲ですがいかにも彼らしい沁みるナンバーです。森 陽馬




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